松竹 五所平之助の大奮闘と伏見晁

 松竹蒲田撮影所では、五所平之助が大奮闘を見せていた。「寂しき乱暴物」「恥しい夢」「からくり娘」「処女の死」「おかめ」(1927)を監督している。

 「恥しい夢」は、うぶな芸者が偽学生にほれるが、偽者だと知って旦那の下に戻るという内容の作品である。五所は小さい頃から父のお供で花柳界に出入りしており、そのことが役立ったという。この作品は田中絹代出世作でもある。田中は、琵琶少女歌劇団で人気を得た後に松竹に入社して、1924年に京都下加茂撮影所でデビューしていた。その後蒲田に移籍したが、蒲田撮影所長の城戸四郎は幼さからクビにしようとした。しかし、田中は城戸の顔をじっと見据えて無言の抵抗をし、クビを撤回させたと言われる。

 「からくり娘」は、旅回りの写真師が美しい娘の婿にと乞われるが、娘は白痴で写真師は去っていくという内容の作品である。五所は小児マヒから障害者となった弟のことを思って製作したと言われる。この作品はキネマ旬報ベスト・テン6位に輝いている。

 五所は、伏見晁の脚本に取り組んだときに良い仕事をしたと言われる。「恥しい夢」「からくり娘」は伏見の脚本である。このころの伏見は、ロマンティックでリリックな作品を得意とし、五所の作風とも合っていた。