松竹 五所平之助のリリシズム

 当時の蒲田撮影所では、伊豆と潮来をロケに多く使った。特に潮来はロマンチックな効果をあげたという。五所平之助は、叙情的な田園映画で傑作を生み出した。「寂しき乱暴者」「からくり娘」(1927)を、その系列にあげることができる。また、五所は都会人だったが田園風景を好み、「おかめ」(1927)では、信州追分までロケを行った。当時のキャメラは主に三浦光雄が担当しており、五所の映画に個性を与えたという。

 五所はこの頃に、美しいショットや軽妙なリズムの中に映画の省略法を生かすようになり、自然の風物を巧みに取り入れ、叙情とユーモアと感傷を表現した独特の作風を示すようになったという。

 1927年に作られた5作品は、五所の個性を感じさせる作品ばかりで、岸松雄は「人物日本映画」の中で次のように書いている。

 「軽いユーモアの中に淡い感傷をにじませる五所独特のリリシズムは、すでにしてこの時、開花した。五所はこのあとなお数多くの作品をつくっているが、それらはいずれもこの年の五作品のヴァリエーションにすぎない」

 この五所の特質は、蒲田調と通じるものがあり、アメリカ流のショッキングやスリリングの代わりに、絵画的・日本的情念といったものが押し出されるようになった。それにつれて、蒲田調はこの頃から、新派映画と区別されてきたのだった。