松竹 林長二郎の映画デビュー

 松竹では1人のスターが誕生している。後に長谷川一夫と改名する林長二郎である。

 松竹は青年歌舞伎役者の林長丸を林長二郎と改名し、松竹配給映画の製作を請け負っていた衣笠映画聯盟に預けて映画デビューさせた。

 林のデビュー作「稚児の剣法」(1927年)の公開にあたって、松竹は銭湯の暖簾、鏡台掛け、扇子、楊枝巻きの紙などを使って女性に対して大々的に宣伝を行い、女性ファンを引きつけた。

 その後も、作品を製作するごとに林長二郎の人気は高まり、衣笠映画聯盟の経営も安泰となったという。長二郎主演の時代劇は、情緒的で女性の人気を集めたと言われる。

 ちなみに、「稚児の剣法」の撮影を担当したのは、後に特殊撮影の分野の第一人者となる円谷英二(当時は本名の円谷栄一)である。円谷は、林を何重にもオーバーラップさせる特撮手法を採り入れた。

 林は続いて衣笠貞之助監督「お嬢吉三」「鬼あざみ」(1927)や、犬塚稔監督「乱軍」(1927)に主演して、続けざまに大ヒットを記録した。「お嬢吉三」では美しい女装を見せ、女性ファンのため息を誘った。これによって、当時経営的に瀕死の状態だった松竹は、経営を立て直したという。