日活 溝口健二の活躍

 1923年に監督デビューを果たした溝口健二の活躍が続いていた。

 「哀しき白痴」(1924)は、溝口が原作の作品で、金をつぎ込んだ女に情夫がいることを知った白痴が、女と情夫を死に追いやるという内容だった。新派劇の常套的なお膳立てだが古臭くなく、人間を描いていると言われる。

 「さみだれ草紙」(1924)は、宗教の尊厳を傷つけるという理由で東京では上映禁止となり、変更された上で上映された。

 溝口は他にも「塵境」(1924)を監督している。金のために富豪の娘と結婚した山の地主・仙吉が、愛人のお松を愚直な男・六造に押し付ける。初めは嫌がったお松も六造の純粋な心に触れて、好意を寄せるようになるという内容だった。六造を演じたのは、日活に入社したばかりの鈴木伝明だった。鈴木は緊張で演技が固く、当時としては珍しいリハーサルを行ったという。お松を演じたのは、村田実監督「清作の妻」(1924)での演技が高く評価された浦辺粂子で、2人の演技は自然で高く評価されたという。「塵境」(1924)は小山内薫が海外の戯曲の翻案した作品だが、「塵境」以後のシナリオは畑本秋一が主に担当した。畑本は毎日のように溝口の家に通ったと言われている。

 「塵境」で六造を演じた鈴木伝明は、当時としては珍しい長身と印象的な二枚目の顔立ちでたちまち人気を得た。1924年には、同じく溝口健二監督「曲馬団の女王」(1924)や、村田実「金色夜叉」(1924)などに出演している。