映画評「ニーベルンゲン/ジークフリート」

※ネタバレが含まれている場合があります

ニーベルンゲン (フリッツ・ラング コレクション/クリティカル・エディション) [DVD]

[製作国]ドイツ [原題]DIE NIBELUNGEN: SIEGFRIED [製作]デクラ=ビオスコープ、ウーファ

[監督・脚本]フリッツ・ラング [製作]エーリッヒ・ポマー [脚本]テア・フォン・ハルボウ [撮影]カール・ホフマン、ギュンター・リター、ワルター・ルットマン [美術]オットー・フンテ、カール・フォルブレヒト [舞台]エリッヒ・ケッテルフート、カール・フォルブレヒト [衣装]パウル・ゲルト・グデリアン、エンネ・ヴィルコム [特撮]オイゲン・シュフタン

[出演]パウル・リヒター、テオドル・ロース、ハンナ・ラルフ、マルガレーテ・シェーン、ハンス・アダルベルト・フォン・シュレットウ、ルドルフ・クライン=ロッゲ、ゲルトルード・アルノルト

 ある国の王子であるジークフリートは、クリームヒルトという王女の美しさを聞き及び、求婚に向かう。クリームヒルトの兄ギュンター王のブリュンヒルトへの求婚を助け、ジークフリートはクリームヒルトの愛を掴む。しかし、ブリュンヒルトはジークフリートらの策略によってギュンター王と結婚させられたことを知り激怒、ギュンター王にジークフリートを殺すように迫る。

 原作は、ドイツの国民的英雄叙事詩であり、ラングとハルボウは原作の大枠を残しながらも、多くの部分を改変して脚本を仕上げている。ジークフリートは人間の若さや強さを代表しており、クリームヒルトは人間の無垢さを代表している。また、ギュンター王は人間の弱さを、ブリュンヒルトや虚栄心や嫉妬深さを代表している。ラングと脚本のハルボウは、英雄譚らしい象徴性と分かりやすさを備えたものとなっている。

 ストーリーは飽きさせることなく、スムーズに進んでいく。ドラゴンとの対決、ドワーフたちとの出会い、火の岸への到着、ブリュンヒルトとギュンター王の力自慢大会といった見所溢れるスペクタクル・シーンの連続のあと、欲望と嫉妬の渦巻くドラマへとつながる。

 この映画や「死滅の谷」(1921)と、「ドクトル・マブゼ」(1922)を見比べると、ラングの演出の幅の広さが感じられる。スペクタクル・シーンや表現主義的なシーンといった超自然的な演出にも、非常に現実的な演出にもラングがその腕前がいかんなく発揮されていることがわかるだろう。

 この映画では、二重写しのような映画的なテクニックを存分に使っている。ドラゴンのシーンでは、一見して作り物とわかるものの、その動きの滑らかさや火を吹く描写には目を見張るものがある。

 ポール・リヒター演じるジークフリートは、豊かな金髪にたくましい体を持ち、若さと強さを見事に体現している(ヒトラーがこの作品に、「強いドイツ」を感じて気に入った理由がわかる)。

 ちなみにこの作品は、1925年にデフォレスト・フォノフィルム・サウンド=オン=フィルムという方式でレコーディングされたサウンド版があるらしいが、ニューヨークでの上映でのみ公開されただけに終わったという。