映画評「ベン・ハー」

ベン・ハー [DVD]

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ  [原題]BEN-HUR: A TALE OF THE CHRIST  [製作・配給]メトロ=ゴールドウィン=メイヤー(MGM)

[監督]フレッド・ニブロ  [原作]ルー・ウォーレス  [脚本]ケイリー・ウィルソン、ベス・メレディス   [撮影]ルネ・ガイザート、カール・ストラス、パーシー・ヒルバーン、クライド・デ・ヴィンナ  [編集]ロイド・ノスラー

[出演]ラモン・ノヴァロ、フランシス・X・ブッシュマンメイ・マカヴォイ、ベティ・ブロンソン

 ユダヤ人の青年ベン・ハーは、友人だったローマ人兵士メッサラと再会する。だが、ベン・ハーはローマの皇帝のパレードの上に誤って瓦を落としてしまい、メッサラに捕まってしまう。囚人としてガレー船の漕ぎ手となったベン・ハーだが、船が海賊に襲われた際に艦長を助けて囚人の身から解放される。

 1959年のウィリアム・ワイラー監督バージョンが有名だ。1925年に作られた本作との最大の違いは、こちらがサイレントでモノクロであるという点だ。同じ小説を原作にしているということもあり、筋は同じである。

 1959年版と比べて約1時間短いため、いくらか省略されている部分もある。たとえば、ベン・ハーとメッサラの関係は、1959年と比較するとかなりあっさりとしたものである。本当に親友だったのかと疑いたくなるほど、メッサラはベン・ハーに冷たい。ただし、逆に1959年にはない部分もある。キリスト誕生のエピソードである3人の賢者は1959年には登場しない。

 タイトルが違うという点も指摘しておきたい。英語タイトルは、「Ben-Hur: A Tale of the Christ」だが、1959年版は「Ben-Hur」のみである。キリストの物語は、映画初期から盛んに映画化された。1912年に作られたアメリカ初の長編映画(約1時間)と言われる「FROM THE MANGER TO THE CROSS」も、キリストの生涯を描いた作品である。映画話法が確立していなかった頃は、観客がストーリーを知っていなければ理解できないような作品も多く製作されており、その意味でも誰でも知っている題材としてキリストは映画化にうってつけだった。1925年頃には映画話法は確立され、観客が知らないストーリーでも映画として表現することは可能になっていたが、キリストの持つ知名度の高さは人びとの関心を集める助けになることを作り手は分かっていたのではないかと思われる。

 「ベン・ハー」というと、最も有名なのはチャリオット・レース(馬車レース)のシーンであろう。古い作品だからといって、1925年版は迫力に欠けると決め付けてはいけない。1925年度版の馬車レースは迫力に満ちているという点で1959年版に負けずとも劣らない。コマ落としを使うことでスピード感をプラスしていると思われる演出は見事だ。ちなみに、1959年版を監督するウィリアム・ワイラーは、馬車レースの助監督の1人だった。

 馬車レースに並ぶスペクタクルとしての見せ場は、海戦のシーンだろう。こちらにいたっては、1925年版のごちゃごちゃとして雰囲気が、リアルに感じられた。海戦シーンの撮影では、火事が起こって出演者たちはパニックを起こしたというから、このリアルさは本物だったのかもしれない。そう考えると、これ以後どんなに上手く作られても、1925年版に勝てるシーンは撮られることはないかもしれない。

 「ベン・ハー」ではシーンによってカラーで撮影されている部分がある。キリストが誕生する神々しいシーンや、ベン・ハーがローマの英雄となってパレードをする華々しいシーン(ここでは胸を露にした女性が映っている!)などに使われているが、時間にするとそれほど長くはない。正直それほど綺麗ではないが、1925年当時の映像=モノクロという固定概念が崩される感覚は、何とも表現しにくいものがある。当たり前のことなのだが、1925年当時の実際の世界はカラーだったのだということを再認識したというか・・・。私たちが、映像というバーチャル・リアリティの世界でしか当時を知らないことや、そのことに慣れていることによるちょっとしたショックのようなものを感じた。

 「ベン・ハー」は、非常によく出来た作品であると思うし、スペクタクル性も高い楽しめる作品であると思う。英雄的なベン・ハーに、救世主であるキリストの物語が見事に語られた作品である。1959年版がそうであるように、1925年版もアメリカ映画の1つの到達点を示すものであり、モニュメントと言ってもいいだろう(コスト的にも、サイレント期に最も製作費のかかった作品とも言われる)。だが正直言って、モニュメント的な意味以上のものがあるかと聞かれると、あまり感じない。そんなものを求めるのが間違っていると言われると、それまでだが。

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