ニッケルオデオンの衰退

 労働者階級にとっての映画常設館として、映画草創期に映画産業確立の立役者となったニッケルオデオンは、この頃には姿を消したとも言われる。そして、入場券を扱う「ボックス・オフィス」という言葉のみが、現在でも使われている。

 そんなニッケルオデオンの特徴について少し触れておきたい。

 ニッケルオデオンは小規模なものが多かった。参入者には小資本家が多く、劇場許認可を得るための出費を抑えるためだったと言われる。規模が大きいほど、許認可には金が必要だったのだ。

 ニッケルオデオンのスクリーンは小さかったという。このスクリーンの小ささがクロース・アップの浸透を促したという説すらあるほどだ。だが、スクリーンが大きいと、当時の映像の解像度や明度の低さが強調されたためとも言われている。

 最も特徴的なのは、イラストレイティッド・ソングと呼ばれる余興がプログラム内に含まれていたことだ。イラストレイテッド・ソングとは、スクリーンの上映されるスライド・ショーに合わせて、歌手と観客が大合唱するというもので、元々はヴォードヴィル劇場の人気演目だったという。スライドはカラーで、通常の映画がモノクロだったの対して、色彩的な楽しみを与えたと言われる。

 イラストレイテッド・ソングの存在が特徴的なように、ニッケルオデオンは「最初の常設映画館」ではなく、過渡期の産物であるという指摘もされている。



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映画館と観客の文化史 (中公新書)

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