トマス・H・インスの「シヴィリゼーション」

 当時のアメリカでは、戦争についての映画が多く作られていた。「イントレランス」もそんな映画の1本と言えるが、トマス・H・インスは「シヴィライゼーション」を監督し、より直接的に戦争へ反対する姿勢を見せている。だが、イギリスやフランスの公開では、大戦中であることを考慮に入れ、愛国主義的に内容を変更されたという。

 冒頭にはウィルソン大統領が登場することからもわかるように、ウィルソンの理想主義的な考えに共鳴した作品で、架空の国の伯爵が平和に目覚めて戦争反対運動を起こすという内容のものだった。

 「シヴィリゼーション」は、プロデューサーの立場として映画を製作していたインスが、トライアングル時代に監督した唯一の作品でもある。製作費は10万ドル程度で、大ヒットしたために80万ドルをインスにもたらした。

 またインスは「HELL'S HINGES(地獄の迎火)」(1916)といったウィリアム・S・ハート主演の西部劇を製作する一方で、実生活の情景、社交界ドラマ、社会的主張を持った作品も手がけた。富のむなしさを説教調で語る「分配金」(1916)、メロドラマである「名誉の祭壇」「弁償」「姉の苦衷」(1916)などが作られている。