映画評「江戸怪賊傳・影法師」

※ネタバレが含まれている場合があります

影法師 [DVD]

[製作国]日本  [製作]東亜マキノ(等持院撮影所)

[監督]二川文太郎  [指揮]牧野省三  [原作・脚本]寿々喜多呂九平  [撮影]田中重次郎

[出演]阪東妻三郎、高木新平、中根龍太郎、牧野輝子、中村吉松、月形龍之介、生野初子、大谷友四郎、中川芳江、泉春子
 
 義賊である影法師は、金持ちや武士などによって困らされている貧しい人々のために盗みを働いている。そんなある日、影法師はある女性に恋をしてしまう。

 サイレント日本映画の大スターである阪東妻三郎出世作と言われている。「影法師」を見ると、阪東妻三郎の人気の一端が垣間見える。何よりも、阪妻はいい男なのだ。多分に白塗りメイクのためもあるが、それでも尾上松之助と比べると100倍くらいシュッとした顔立ちであることは間違いない。当時の女性たちが、阪妻目当てで映画館に押し寄せたとしても驚きはしない。

 ストーリーは義賊ものに、ロマンスを組み合わせたものである。主人公の影法師は、松之助映画のような完全無欠な豪傑ではない。恋に悩む人間味を持った男として描かれる。ラストで、一度は恋する女性のために捕縛されようとするが、その女性から影法師への愛を告白され、縄を引きちぎって捕り手を振り払い、愛する女性と逃亡していく姿は、その先にある希望が小さいものであるがゆえに、美しさを感じた。

 同じ年に作られた外国映画を比べると、映像で語るという面では不十分であることは否定できないだろう。活弁がなければ、ストーリーを追っていくのは難しい。それでも、活弁を使った映像表現という日本独特の手法の枠内で考えると、「影法師」はその手法が成熟していることを教えてくれる。

 残念なのは、残されているフィルムが不完全であることだ。公開時は、前篇7巻・後篇6巻の全13巻の上映時間としては恐らく2時間以上の大作であった。だが、残されているフィルムは1時間弱だけである。そのために、影法師の恋愛が追い詰められていく部分が字幕で処理されている。完全ではなくとも、せめてあと30分でも残っていれば、もっと胸を打つ作品として、私の心に残ったかもしれない。

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