その他のマキノ映画と山上伊太郎

 マキノでは、嵐長三郎や片岡千恵蔵映画以外にも、多くの作品が作られた。

 以前からのスターだった月形龍之介が出演した「いろは仮名四谷怪談」(1927)は、井上金太郎が監督を担当し、伊右衛門月形龍之介、お岩を鈴木すみ子が演じた。バンプ女優として人気があった鈴木は、後に本名の鈴木澄子に戻して、「佐賀怪猫伝」(1937)で怪猫に取りつかれた側室に扮し、化け猫女優として有名になる。

 他にも月形が出演した「悪魔の星の下に」(1927)は、前年に脚本家としてマキノでデビューした山上伊太郎が、脚本を担当している。剣道指南所へ道場破りが乗り込んで来る。病床の父に代わって立ち会うはずの息子は自信がないため、友人の剣士に頼む。友人は代償に妹を要求し・・・という内容の作品だ。男女のどろどろとした愛憎劇で、救われない絶望の中で燃える情炎がえぐられた作品だという。大衆的な支持を得ることはできなかったが、屈折的な題材が一部で受けたと言われる。この後マキノでは、月形主演の「道中悲記」やマキノ正博主演の「矢衾」(1927)など、似たような作品が製作された。

 「道中悲記」は、井上金太郎が、秋篠珊次郎の筆名で原作・脚色した時代劇悲劇である。主人と旅に出た槍持ちは、仮病を使って仲の良くなった女と宿に滞在している間に、主人と仲間が殺されてしまい・・・という内容の作品である。