フランス ゴーモン社の作品 1906年

「LA NAISSANCE, LA VIE ET LA MORT DU CHRIST」(1906) 

 英語題「THE BIRTH, THE LIFE AND THE DEATH OF CHRIST」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 キリストの誕生から処刑、再生までを描いた作品。10分弱の作品がほとんどだった当時において、30分強という長尺の作品となっている。とはいえ、キリストの生涯を描いた長尺作品は、この作品が最初ではない。この作品を製作したゴーモン社と同じように、草創期のフランス映画界を支えたパテ社がすでに製作している。パテ社の作品は大ヒットとなったことから、この作品もヒットにあやかって作られたものと考えられる。

 パテ社作品と同じようにタブロー形式で撮られている。タイトルカードがその後に映像として映し出される内容のタイトルを示し、その後に映像が映し出される。タブローは全部で21ある。映像は基本的に固定したカメラでカットは割られない。舞台のシーンをいくつもつないでいるという印象だ。

 ロケが数シーンで行われている点には触れておく必要があるだろう。特に、キリストが十字架を背負ってゴルゴダの丘を登るシーンは、縦の構図が効果的に使われており、私が見たDVD用の音楽の効果も得て、印象的なシーンだった。


「UNE COURSE D’OBSTACLE」(1906)

 英語題「AN OBSTACLE COURSE」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 10人程度の男女が、障害物競走を行う。

 野外で撮影されており、いくつかのシーンからなっている。「障害物競争」という、それ自体がスペクタクルな題材を扱っているものの、映画的に見せる工夫はあまりされていない。


「MADAME A DES ENVIES」(1906)

 英語題「MADAME'S CRAVINGS」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 食欲を抑えきれない妊娠中の女性が、人の食べ物や飲み物、果てはパイプまで勝手に奪ってしまう。

 他愛もないと言ってしまえばそれまでのコメディ。途中でカットが割られて、女性が奪ったものを食べたり飲んだりするシーンがバスト・ショットで映し出される点が特徴。また、ラストにはキャベツ畑で子供が誕生する。ギイの作品には、キャベツ畑がよく登場する。


「UNE FEMME COLLANTE」(1906)

 英語題「A STICKY WOMAN」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 主人が切手を貼るために、舌を出しているメイド。その姿を見た男が、メイドにキスをするが・・・

 ワンショット、固定で撮影されており、技術的には見るべきところはないが、コントとしての発想が面白い。また、これまでのコント作品が、いかにも舞台で撮影されているような雰囲気なのに対し、郵便局内の雰囲気が伝わる自然な雰囲気となっている点も注目だ。


「LA HIERARCHIE DANS L’AMOUR」(1906)

 英語題「THE HIERARCHIES OF LOVE」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 女性を口説く兵士。だが、上官に女性を奪われてしまう。その上官もさらに上官に奪われ・・・

 ロケであることや、複数のシーンから成立していることが、映画に自然さを与えている。コントのネタとしては、それほど新鮮味や面白みを感じなかった。


「LA MARATRE」(1906)

 英語題「THE CRUEL MOTHER」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 実の娘を愛し、義理の息子を虐待する母親。警察に保護された息子を迎えに行った父親は、虐待を知る。

 最初期の社会派の作品の1つと言えるだろう。作りは単純だが、映画が徐々に内容に目を向け始めた証明の1つと言える。


「UNE HISTOIRE ROULANTE」(1906)

 英語題「A STORY WELL SPUN」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 男の入った樽が転がっていき、人とぶつかったり汽車とぶつかったりと散々な目にあう。

 野外ロケで撮影されており、転がる樽の勢い(時に不自然に動いたりもするが)の魅力が存分に描かれている。早く動くものはそれだけで、目を引く。

 D・W・グリフィスの監督デビュー作である「ドリーの冒険」(1908)も、樽に入った女の子の災難を描いている。「ドリーの冒険」が、サスペンスを生みだそうという意思に満ちているのに対して、この作品にはそうした工夫は見られない。ギイとグリフィスの違いはそこにある。


「LE MATELAS EPILEPTIQUE」(1906)

 英語題「THE DRUNKEN MATTRESS」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 メイドがマットレスを縫い直している。目を離した隙に酔っ払いがその中に入ってしまう。

 アイデアは面白いかもしれないが、「マットレスが動き出して大変!」という展開にはならず、地味な展開に終始する。動きが乏しく、せっかくのアイデアが死んでしまっているように感じられた。


「LE NOEL DE MONSIEUR LE CURE」(1906)

 英語題「THE PARISH PRIEST'S CHRISTMAS」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 クリスマスの夜、教会に集まった人々の前にマリア様が現れて、人々に子供を授ける。

 ストップ・モーションを使った映像トリックで、マリア像が実際に生きた人間に変わるシーンがメインの作品。というよりも、それ以前の集まる人々の描写は平凡で、ラストのシーンだけでもよい気さえする。ギイの物語作家としての能力の限界を感じてしまう。


「LA VERITE SUR L’HOMME-SINGE」(1906)

 英語題「THE TRUTH BEHIND THE APE-MAN」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 主人の毛生え薬を飲みものと間違えて飲んでしまった召使いの全身から、毛が生えてくる。

 発想としてはありがちだが、まるで黒いマスクをしているかのように顔にまで毛が生えるという極端さが面白い。途中で、はげ頭にいくら振りかけても毛が生えてこない薬(飲んでしまった召使いが水を入れておいたのであった)に、どんどん苛立っていく男のカットが途中でインサートされており、笑いを誘う。


「LES RESULTATS DU FEMINISME」(1906)

 英語題「THE CONSEQUENCES OF FEMINISM」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 現実の世界の男性と女性の立場を逆転させ、家庭・酒場などを描いて見せる。

 ウィットの利いた風刺劇と言える。男性が女性的な仕草で歩き、家事をする。女性が、酒場で豪快に酒を飲んだりタバコを吸ったりし、路上で出会ったかわいい男性を誘って自分のものにしようとする。

 「フェミニズムの結果」というタイトルは、フェミニズムを批判しているように捉えられるかもしれないが、実際は逆だ。映画内の女性たちの横暴は、現実内の男性たちの横暴である。発想の勝利だ。

 ちなみに、この頃のゴーモン社の作品には、Gをかたどったヒマワリのようなゴーモン社のロゴを、映画内に見ることができる。ロゴは、著作権違反を防止するためで、他の同時期の映画会社でも行われていた。


「EFFETS DE MER」(1906)

 英語題「OCEAN STUDIES」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 岩場で荒れる海を撮影。特にストーリーはないが、うねる水の動きは目を離せない。映画が、動きを捉えるメディアとして最適であることを再認識させてくれる。


「LE FILS DU GARDE-CHASSE」(1906)

 英語題「THE GAME-KEEPER'S SON」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督アリス・ギイ

 猟場の番人が密漁者によって殺される。それを目撃した番人の幼い息子が、密漁者たちを追い詰める。

 ロケの魅力を生かした復讐劇となっているが、演出的に凝ったところはないのが残念。だが、当時物語を自然に語ることが、映画の機能・魅力として一般化していたことが伺える。