D・W・グリフィスの作品 1912年(10)

「THE MUSKETEERS OF PIG ALLEY(ピッグ横丁のならず者)」

 D・W・グリフィス監督作品。バイオグラフ社製作。

 舞台はピッグ横丁。ここはギャングたちが跋扈する場所であった。とあるトラブルが元で、2組のギャングたちは抗争に発展する。それに巻き込まれるミュージシャンと妻だが、最後には警察に追われたギャングのボスであるスナッパー・キッドを助けてやる。

 ギャングを扱った初めての作品とも言われている。きちんとしたスーツに、タバコの火のつけ方、人の殴りつけ方など、後のギャング映画に通じる仕草があらゆるところに垣間見える。ギャングのボスを演じたエルマー・ブースの好演が光る。

 本当の主人公は、ミュージシャンとリリアン・ギッシュが演じるその妻なのだが、ギャングの方が目立ってしまっている。演出もギャングの描写の方に力が入れられており、特にギャング同士の抗争の銃撃戦の演出が素晴らしい。決闘の場所にゆっくりと静かにやってくるギャングたちと、先にやってきて物影に隠れているもう一方のギャングたちのカット・バック。それぞれの動きは、スローでじっくりと描かれており、それゆえに緊張感も高まる。いざ、決闘の場所にギャングたちがやってくる。観客はその路地の物陰にもう一方のギャングたちが隠れているのを知っている。ゆっくりと歩を進めるギャングたち。これから起こる激烈な戦いを予感させながら、なかなか口火は切られない。物陰から登場するもう一方のギャングたち。画面には発砲によって舞い上がる煙や衝突するギャングたちによって、静寂から一気に混沌へと移り変わる。

 この銃撃戦の演出では、クロース・アップやカット・バックといった演出が、ただ使われているというのではなく、ドラマの説明としてだけではなく、そのシーンの緊張感を高めることに寄与している。しかも、当時はまだギャング映画というジャンルもなかった時代に、グリフィスはギャング映画における銃撃戦を見事に演出して見せている。撮影が実際のニューヨークの路地で行われたという点も大きい。

 ギャングたちの脇に追いやられているものの、この年から映画界入りしたリリアン・ギッシュが光っている。当時、19歳のギッシュは、たくましさを見事に表現している。「散り行く花」(1919)と続けてみると、ギッシュのすごさがわかるというものだろう。



(DVD紹介)

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

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 バイオグラフ社所属時代のD・W・グリフィスの作品を集めた2枚組DVD。多くが1巻物(約15分)の作品が、全部で22本見ることができる。