バスター・キートン出演作「コック」

 原題「THE COOK」 製作国アメリ
 コミック・フィルム製作 パラマウント・ピクチャーズ配給
 監督・脚本・出演ロスコー・アーバックル 出演バスター・キートン アル・セント・ジョン

 レストランでコックをするファッティと、ウェイターをしているキートン。ファッティは料理をキートンに放り投げ、キートンはそれを受け取って給仕する。エジプト風のダンスを見ていると、キートンとファッティも踊り出す。まかないのスパゲッティをうまく食べられずに四苦八苦。仕事が終わった後は、遊園地でドタバタを繰り広げる。

 「コック」は面白い。ファッティがナイフやフライパンをジャグラーのように巧みに操って見せれば、キートンはファッティが投げた料理の乗った皿を絶妙のタイミングで受け止める。キートンが人に押されて、まな板の上に乗っかってしまうと、ファッティは間違って肉切り包丁をキートンの首の上に振り下ろしてしまう(当然、首が落ちることはない。キートンはちょっと痛がるだけだ)。

 といったちょっと工夫されたギャグに加えて、練られたギャグがあるのも「コック」をおもしろくしている理由の1つだ。

 エジプト風のダンスを見ていると、キートンはつられて踊り出してしまう。それを見たファッティも踊り出し、周りにあるチリトリやおたまを身に着けて、エジプト風の衣装にしてしまう。しかも、そこにトレイに乗ったキャベツ(?)が持ってこられ、「サロメ」のワンシーンの1人芝居となる。さらに、ソーセージを毒蛇に見立ててクレオパトラまで演じてみせる(この辺は「サロメ」やクレオパトラ暗殺のエピソードを知らないとおもしろくない)。

 もう1つ練られたギャグはスパゲティを食べるシーン。「スパゲティ、別名さなだ虫」という字幕の後、長いスパゲティに悪戦苦闘するファッティやキートン。ハサミでチョキチョキ切りながら食べたり、カップに移し変えてコーヒーを飲むようにすすったり、長いスパゲティを2人の人間が引っ張り合ったりと盛りだくさん。ファッティがスパゲティと一緒に首に巻いているスカーフも食べているシーンは、チャールズ・チャップリンの「街の灯」(1931)でチャーリーが紙テープをスパゲティと一緒に食べるシーンを思い起こさせる。

 アル・セント・ジョンもいつもどおり出演しているが、影は薄い。犬に追い掛けられるギャグを見せてくれるが、これまでに繰り返されてきたものなので、工夫を凝らされたギャグがたくさんある「コック」の中では埋没してしまっている。

 「コック」でもう1つ指摘したい点は、犬(ルークという名前らしい)の撮り方だ。アルを追い掛ける犬が、壁からヌッと現れるショットなどが加わることで、犬の存在が大きくなっている。同じ年に作られたチャップリンの「犬の生活」(1918)でも、犬は大きくフィーチャーされているが、「コック」ほど演出面でフィーチャーされてはいない。この意味で、アーバックルとチャップリンの演出の違いが見えてくる。アーバックルは自分以外も光らせるが、チャップリンは自分を光らせるための演出を行っているように感じられる。どちらも、結果としておもしろければ文句はなく、どちらもおもしろいのだから文句はない。

 「コック」には、失われたシーンがあるという。アメリカのビデオのパッケージにはファッティがサクソフォンを吹いている写真が使われているが、本編には残っていない。

バスター・キートン短篇全集 1917-1923 [DVD]

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