D・W・グリフィスの必死の映画製作 「アメリカ」「素晴らしき哉人生」

 興行的なヒット作を生み出せず、必死の映画製作を行っていたD・W・グリフィスは、独立戦争を描いた「アメリカ」や、第一次大戦後の食糧難にあえぐドイツの家族を描いた「素晴らしき哉人生」(1924)といった作品を監督している。真剣でケレン味のない手法で作られ、当時の流行には合わない作品であり、興行的に失敗した。
 「アメリカ」は、独立戦争時代の愛国者たちの話にロマンスを交え、有名なポール・リビアの騎行といったエピソードも盛り込まれた。ニール・ハミルトンやキャロル・デンプスターが出演した。

 「素晴らしき哉人生」を、ジョルジュ・サドゥールは成功作としている。「世界映画全史」の中でサドゥールは、「この作品全体を着想させた感情は、誠実で悲痛で真実である。この作品では、自然の背景は重要な場所を占めており、そのトーンは、後年の、ネオリアリスモとなるものに近づいていた」。

 グリフィスは経済的にも苦しく、借金をして映画製作を行っていたという。この頃には225万ドルにも及ぶ借金を背負っていたと言われている。経済的に独立プロダクションを維持できなくなったグリフィスは、「素晴らしき哉人生」を最後に、自らが設立に参加したユナイテッド・アーティスツを去り、パラマウントの専属監督として活動を行っていくことになる。

 リリアン・ギッシュはこの頃のグリフィスが不幸だったことの一つに、大監督のグリフィスに意見を言えるような人物がいなくなっていたことを挙げている。

 また森岩雄は、「アメリカ映画製作者論」でこの2作に触れて次のように書いている。

 「ひたすら彼(グリフィス)はアメリカの不安な現状について、アメリカ大衆の堕落した趣味についてむしろ積極的な憤りを感じ、正面から彼等に教え、彼等を戒しめる気持ちになっていた」

 「この二作の興行的不評は彼にとっては誠に不本意であり心外な出来事であったに相違ない。私はこの二作を見ているが、これらの作品に流れている根本的な主張はいつの世にも通用する不易な主題であると信じている。併しいかにもその作り方や味のつけ方は古風であり過ぎた。娯楽を求める一般の見物にとって味のないものである。グリフィスほどの人物がそんなことの解らぬことはないのだろうが、そういう器用な工夫を頭から無視していたのか、或いは心得ていてもそれが出来なかったのか、おそらく前者であったのであろう。自信の強い芸術家は自らの信念を大きく妥協することはいつでも出来難いものらしい」

 華やかなりし時が去ったグリフィスの苦しみが感じられる。

D・W・グリフィスのアメリカ [DVD]

D・W・グリフィスのアメリカ [DVD]

【関連記事】
映画評「アメリカ」
映画評「素晴しい哉人生」