「ドン・ファン」 トーキーが目前に迫る

ドン・ファン【淀川長治解説映像付き】 [DVD]

 現在にも名を残す映画製作会社のワーナー・ブラザースは、当時のハリウッドにおいてはマイナーな会社だった。金払いも悪く、「はげ鷹グループ」と呼ばれ、ギャラの高い人気スターは寄り付かなかったという。

 そんなワーナーが、ジョン・バリモア主演で、歌だけをトーキーにしたサウンド版の「ドン・ファン」(1926)を公開し、大成功を収めている。特別試写では前座として、ウィル・ヘイズがトーキーへの期待を語る短編映画や、音楽と歌を映像と同調させた短編も上映された。

 主演はジョン・バリモアで、天下のプレイボーイを嬉々として演じてまさに適役だった。女性に迫る姿には精悍さすら感じさせた。

 なぜ、マイナーだったワーナーが、トーキーの面では先行したのか?その理由の1つに、ワーナーがマイナーだったということが逆に効を奏したと言われている。ディスク式音響装置を開発したウェスタン・エレクトリック社は、大手映画会社にもトーキーのシステムを売り込んだ。新しいメディアのラジオに映画が押されつつあったが、経営状況が安定していた大手は、あえてリスクを伴うトーキーの先陣を切る必要がなかったのだ。マイナーだったワーナーは、大手に対抗するための新機軸としてウェスタン・エレクトリック社と組んで、1926年4月には子会社のヴァイタフォンを設立し、トーキーに積極的に取り組んだのだった。

 「ドン・ファン」の成功により、一家を映画産業に引き込んだワーナー兄弟の三男サムは、トーキーの可能性を確信し、ワーナーはトーキー映画に社運をかけることになる。

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