映画評「駄法螺大当り」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ  [原題]THE SHOW OFF  [製作]フェイマス・プレイヤーズ=ラスキー  [配給]パラマウント・ピクチャーズ

[監督]マルコム・セント・クレア  [製作補]ウィリアム・ルバロン  [原作]ジョージ・ケリー  [脚本]ピエール・コリングス  [撮影]リー・ガームス

[出演]フォード・スターリング、クレア・マクダウェル、チャールズ・グッドリッチ、ロイス・ウィルソン、ルイーズ・ブルックス、グレゴリー・ケリー

 オーブリーは口先だけの男。薄給のサラリーマンなのに、実業家のように装い、それを信じたエイミーはオーブリーと結婚してしまう。オーブリーはクジで当たった自動車で暴走して逮捕され、オーブリーの本当の姿を見抜いているエイミーの兄だったが、家を抵当に入れて得た千ドルを使って罰金を払ってやる。

 1910年代の前半には、マック・セネットが主宰したキーストン社の短編コメディに、キーストン・コップの署長として活躍したことが有名なスターリングが主演している。署長を演じていたことよりもふっくらとして貫禄がつき、トレードマークだった山羊ヒゲもつけていないため、一見すると同一人物だと分からないかもしれない。ちなみに、ブレーク前のルイーズ・ブルックスも出演しており、トレードマークとなるシャープな短髪を見せてくれる。

 スターリングの映画である。嘘つきだが天真爛漫なオーブリーを、サイレント映画でもある「駄法螺大当り」ではパントマイムと表情で演じてみせる。トーキーでも同じ原作(戯曲)を元にした作品が作られている(スペンサー・トレイシーが主演している)が、言葉が聞こえると本当にイヤな奴に感じそうなキャラクターなため、サイレント映画だから受け入れられるキャラクターと言えるかもしれない。

 後半は、改心したオーブリーが、それまで嫌な部分だった口八丁と天真爛漫さと無茶な突進で解決してみせる。ハッピー・エンドを原則とするハリウッド映画において、同タイプの解決を見せる作品はたくさん作られていくが、その最初期の例と言えるだろう。細かいところをつつくと(どうやって鉄鋼会社の重役へのプレゼンに持ち込んだのかなど)、疑問は多々沸き上がってくるが、それが嫌ならば見なければ良いだけの話だ。見るからには乗らなきゃ損である。

 アメリカの、ひいては世界のコメディ映画の草創期に名を残すスターリングが、10年以上の時を経て、「駄法螺大当り」のような作品で、自らのパントマイム演技の実力を堂々と見せてくれるのは非常に嬉しい。私の中でスターリングは、キーストン・コップの署長としてと同時に(いや、それ以上に)「駄法螺大当り」の主役を演じた男として記憶に残っていくだろう。