映画評「つばさ」

※ネタバレが含まれている場合があります

つばさ [DVD] FRT-197

[製作国]アメリカ  [原題]WINGS  [製作]パラマウント・フェイマス・ラスキー・コーポレーション  [配給]パラマウント・ピクチャーズ

[監督]ウィリアム・A・ウェルマン  [原作]ジョン・モンク・サウンダース  [脚本]ホープ・ローリング、ルイス・D・ライトン  [撮影] ハリー・ペリー  [編集]E・ロイド・シェルドン

[出演]クララ・ボウ、チャールズ・“バディ”・ロジャース、リチャード・アーレン、エル・ブレンデルジョビナ・ラルストンリチャード・タッカーゲイリー・クーパー、ガンボート・スミス、ヘンリー・B・ウォルソール

[賞]アカデミー賞作品賞、技術効果賞受賞  国立フィルム登録簿登録

 田舎に住むジャックは、シルヴィアに恋をしている。シルヴィアは富豪の息子のデイヴィッドと愛し合っている。一方、ジャックの隣に住むメアリーは、ジャックに恋をしていた。第一次大戦アメリカが参戦することになり、ジャックとデイヴィッドは空軍のパイロットとして出征する。

 何よりも第1回のアカデミー賞作品賞を受賞した作品として有名である。ちなみに、技術効果賞も受賞している。第一次世界大戦という時代に合った題材に、ハリウッドがお得意としていく恋愛を絡めた作品で、航空シーンにはハリウッドの技術力の高さも誇示されており、確かにアカデミー賞の名にふさわしい作品といえる。

 航空シーンは確かに素晴らしい。操縦席を正面に捉えたショットなど、この後作られていく多くの航空シーンの雛形がすでに完成されている。他にも地上を真下に捉えて爆撃の様子を見せるショットなど、「つばさ」が残した遺産は大きいだろう。地上戦の撮影の規模も大きいし、爆撃シーンでは本当に町を1つ破壊しているかのような印象を受けるほどで、製作費がかかっているのが伝わってくる。

 ストーリーに触れよう。田舎の純真な青年が、戦争の実状を知って変化するという内容は、この後も繰り返されるものだ。派手な戦闘シーンや、クララ・ボウ知名度などで誤解されがちだが、「つばさ」が最も優れているのはこの部分であると私は思う。ゲームのように戦争に参加したジャックが、親友デイヴィッドがドイツ軍に殺されたと思い込み復讐の鬼になるが、それはさらなる悲劇へとつながる。こうした経験が、ジャックを変えていくのだ。

 田舎へ帰ってきた後、ジャックがデイヴィッドの両親の元へ行くシーンの演出が素晴らしい。デイヴィッドの実家は金持ちで、両親は偉ぶっている。威厳を崩すまいとする母親だが、遺品を見て崩れ落ちる。車椅子の父親はどんなに威厳を保とうとしても、全身から悲しみがにじみ出ている。車椅子の存在が心憎い。なぜ父親が車椅子なのかは説明されない。だが、車椅子の生活に至る不幸な何かを経験した父親は、これから新たに振りかかった不幸と戦っていかなければならないのだ。

 クララ・ボウの知名度の高さもあり、「つばさ」はクララ・ボウ中心で見られることも多い。だが、彼女の出演シーンは多くない上に、パリでの酔っ払ったジャックとのやり取りは、彼女のセックス・アピールを求める観客の声に応えただけのようなシーンとなっている。それでも、「つばさ」のクララ・ボウは必要不可欠だ。洗練された美人のシルヴィアに対して、メアリーは決して美人ではない。美人ではないがいつも隣にいてくれたメアリーの存在が、戦争を体験したジャックにとっては救われるのだ。

 1つだけ、残念に思ってしまった点がある。それは、戦闘シーンが長く感じられてしまったことだ。その理由は、完全に現在の視点によるものだ。音がないのだ。サイレント映画に音がないということを不満に思うのは、ナンセンスなことは分かっている。それでも、「プライベート・ライアン」(1998)ようなの戦場描写を経験してしまうと、どうしても戦場の音の不在が物足りなく感じ、戦闘シーンを長く感じてしまった。

 「つばさ」は素晴らしい映画だ。反戦を声高に叫んではいない。それでもジャックと同じ運命を辿りたいかと聞かれたら、私は嫌だ。フランス兵はこう言う。「これが戦争だ」と。これが戦争だとしたら、私は戦争が嫌いだ。

つばさ [DVD] FRT-197

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