D・W・グリフィスの作品 1911年(5)

「ENOCH ARDEN(イノック・アーデン)」

 D・W・グリフィス監督作品。バイオグラフ社製作。

 アルフレッド・テニソンの原作の映画化。グリフィスはすでに「THE UNCHANGING SEA(不変の海)」(1910)で、同原作を元にした作品を映画化しているが、内容的には簡略されており、ラストも違う。だが、今回の映画は、細部が省略されている部分が多々あるとはいえ、大筋の流れは原作に沿ったものとなっている。この違いは何か?

 その秘密は、この作品を語るときの決まり文句である次の点に要約される。この作品はD・W・グリフィスにとって初の2巻物(約30分)の作品なのだ。それまでのグリフィスは所属していたバイオグラフ社の方針により、1巻物(約15分)以上の作品を製作したことはなかった。この作品も、会社の命令で1巻ずつに分けて公開されたのだが、観客の「1本の作品として続けてみたい」という要望の声が高く、通常の2倍の入場料を取って公開することになったのだという。「THE UNCHANGING SEA(不変の海)」の2倍の時間を使えることにより、グリフィスは原作の大筋を映画化できるようになったというわけである。

 生活費を稼ぐために妻と子を残して海へ出たイノック・アーデンだが、嵐に遭遇して無人島に漂流する。そんな夫の帰りをひたすら待つ妻のアニーは、彼女を愛するフィリップの再婚の申し出も断る。10年以上が経過し、ようやく救助されたイノックが戻って見たものは、ついにフィリップの再婚の申し出を受け、フィリップとの子供をあやすアニーの姿だった。

 グリフィスは手堅い演出で、感動的な物語を仕上げている。しかし、厳しい見方をすると、時間が長くなって長いストーリーを語ることができるようになったためか、ストーリーに頼りすぎているようにも感じられた。これまでの1巻物のグリフィスの作品には、ストーリーを長く語ることをできない分、それを補ってあまりある叙情的なシーンがある作品があったのだが、この作品にはそこまでのシーンを感じられなかった。とはいえ、救助されたイノックが再婚したアニーの姿を窓から覗き見るシーンなどで、その片鱗は見ることはできる。



(DVD紹介)

「Biograph Shorts 」

 バイオグラフ社監督時代のD・W・グリフィスの作品を集めた2枚組DVD。ほぼ15分程度の短編が、全23作品収められている。デビュー作「ドリーの冒険」も収録。

 アメリカのamazonから輸入して買うことができるが、もちろん英語。それでも買いたいと思う人は、下記サイトが参考になります。

http://dvd.or.tv/


注意!・・・amazonでは「リージョン1」となっていますが、私が持っている日本国内用の「リージョン2」のプレーヤーでも再生できました。リージョンは「オール」と思われますが、実際に購入して見られなくても責任は負いません。