ミューチュアル時代のチャップリンの作品「チャップリンの移民」
原題The Immigrant 製作国アメリカ
ローン・スター・コーポレーション製作 ミューチュアル・フィルム・コーポレーション配給
製作・監督・脚本・編集・出演チャールズ・チャップリン 出演エドナ・パーヴィアンス
移民船に乗るチャーリーは、金を盗まれたエドナと母親のためにバクチで儲けた金をあげて親しくなる。しばらく経ち、貧しい生活を送るチャーリーは拾った金でレストランに。そこで、エドナと再会するも、チャーリーはポケットに穴が開いていてお金をなくしてしまう。困ったチャーリーだが、画家が2人をモデルにしたいと申し出てなんとか支払いを済ます。前途が明るくなったチャーリーとエドナは結婚するために、手続きに行くのであった。
この作品は素晴らしい作品だと思う。何よりも素晴らしいと思うのは、レストランのシーンにおけるサスペンスとギャグの融合だ。チャップリンはレストランで、10セント足りないばかりに袋叩きにされる男性を見る。不安になったチャーリーは、なけなしの拾った硬貨を確認しようとするが、ない。ポケットに穴が開いていて落としてしまったらしい。そんなチャーリーの目の前でウェイターが硬貨を落とす。それに気づいたチャーリーは、ウェイターに気づかれないように硬貨を拾おうとする。このときのチャーリーのあわてようや、何とか拾おうとするがウェイターに気づかれそうになってごまかしたりといった仕草は、ギャグとしてもおもしろい。と同時にそこには、チャーリーは代金を払えるかどうかというサスペンスがある。
何とか拾ったところで終わらない。拾った硬貨で支払いを済まそうとするが、何とこの硬貨が偽造硬貨だった。また、振り出しに戻ったチャーリーの元に画家が「モデルになって欲しい」とやって来る。金持ちそうなこの画家は、チャーリーたちの分も払おうとするが、チャーリーは謙遜する。何回か「払おう」「いいですよ」のやり取りの後、画家の方が引き下がってしまう。せっかくのチャンスを逃してしまい、サスペンスはさらに高まる。結局、画家がウェイターのために渡そうとしたチップを自分の支払いとして何とか難を逃れるのだった。
このレストランのやり取りには、サスペンスとギャグの融合に加えて、「チャーリー」という人物像が詰まっている。小心者であること、女性には優しいこと、見栄っ張りであることなどだ。この作品には船のシーンでも「チャーリー」がいる。金をなくして困ったエドナのポケットにそっと金を入れて、チャーリーは去ろうとするのだ。幸運にも、チャーリーが金を「入れた」ところを船員が見て、金を「取った」と思わなければ、チャーリーは粋なままエドナの前から去ることになったであろう。
自由の女神を見たすぐ後にロープで閉じ込められるチャーリーらの姿に、アメリカの表と裏を見るのもいいだろう。しかし、何よりも、この作品にはチャーリーがいる。そして、チャーリーはギャグとサスペンスにうまく噛み合っていることの方が大きい。
ストーリーはご都合主義的だ。チャーリーとエドナの再会も、モデルを依頼する画家の存在も、あまりに唐突だ。だが、この作品はそれを補って余りある素晴らしさがある。もちろん、ギャグとサスペンスの融合もそうだ。それと共にこの映画を素晴らしい作品としているのは、貧困だ。貧困は、サスペンスを生み出している要因ともなっている。チャーリーは貧しいが、レストランの店員たちは貧しいからといって、金のないチャーリーを許すことはないだろう。その前提が、レストランのシーンをハラハラドキドキしながら見なければならない理由となっている。
レストランを出てきたチャーリーとエドナに雨が降る。貧しい2人だが、いまや何とかお金を得る手段も見えてきた。そんな2人に雨など関係ない。チャップリンの映画を見ると宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」の詩が思い浮かぶことがある。「移民」のラストは「雨ニモ負ケズ」そのままだ。そして、それこそが、チャップリン映画の魅力なのだと私は思う。
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