ドイツ 表現主義の影響が映画へ

 表現主義とは、内面や感情を表現するために、現実とは違った形で表現する方法のことである。特に不安や葛藤などが表現されることが多かったという。

 表現主義の説明については、イギリスの美術史家ハーバート・リードの解説がわかりやすい。

 「表現主義は、文字通りの意味にしたがって行動する。すなわち、どんな犠牲を払っても芸術家の感情を表現するのであり、その犠牲とは普通ほとんどグロテスクといってよいほど自然を誇張、歪曲するのである」

 表現主義は、決して映画だけの運動ではなく、様々な分野に横断するものだった。むしろ、映画が表現主義へと向かったのは他の分野よりも遅かった。ちなみに、当時のドイツの状況について、ジョルジュ・サドゥールは「世界映画全史」の中で、次のように書いている。

 「敗戦に続く混乱した日々に、表現主義はベルリンの通り、ポスター、劇場、カフェの装飾、店、陳列窓に、数年後のパリにおけるキュビスムがそうであったように、なだれ込んだ」

 ドイツ映画における表現主義作品としては、みじめな社会生活を風刺した「朝から夜中まで」(1920)が最初の作品と言われている。しかし、一般的に有名なのは、「カリガリ博士」(1920)であろう。

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