映画評「オペラの怪人」

オペラ座の怪人 [DVD]

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ  [別題]オペラ座の怪人 [原題]THE PHANTOM OF THE OPERA  [製作・配給]ユニヴァーサル・ピクチャーズ

[監督]ルパート・ジュリアン  [原作]ガストン・ルルー

[出演]ロン・チェイニー、メアリー・フィルビン、ノーマン・ケリー、アーサー・エドモンド・カリュー、ギブソン・ゴーランド、ジョン・セント・ポリス、スニッツ・エドワーズ、ヴァージニア・ピアソン

 パリのオペラ座の地下には、幽霊が住むと噂されている。そんな中、歌手のクリスティーヌを出演させるようにという謎の手紙が届き、出演させないと客席のシャンデリアが落ちるといった事件が起きる。一方、クリスティーヌは謎の声に導かれてオペラ座の地下へ。幽霊と噂される男と会うが、彼はマスクをつけていた。

 この後も多くの映画化作品があり、ミュージカルなどでも親しまれ続けている、ガストン・ルルー原作「オペラ座の怪人」の初映画化作品である。

 ユニヴァーサルは当時、製作する映画を3つのグレードに分けており、「オペラの怪人」は最高級のランクである「ジュエル」の作品として製作された。「ジュエル」の名にふさわしく、オペラ座のセットは見事だし、シャンデリアの落下といったスペクタクルもあり、怪人のエリックが住む地下のセットのディテールも凝っている。

 主演は、同じくユニヴァーサルの大作「ノートルダムのせむし男」(1923)でも、素顔が分からないメークで主役のカジモトを演じたロン・チェイニーである。「オペラの怪人」でも、やはり素顔がわからないメークで、するどい眼光が印象的な怪人エリックを演じて、「千の顔を持つ男」の名に恥じない姿を見せてくれる。

 チェイニーによる「髑髏のような」顔のメークは、原作の描写に従っているという。確かに醜い顔だが、よく見ると醜いが恐ろしくはないように思える。その点から、個人的にはクリスティーヌが非常に傲慢な女性に感じられてしまった。歌の才能を伸ばしてもらい、主役も張らせてもらえるようになったのにも関わらず、エリックが醜いという理由で拒絶する傲慢な女性に見えてしまったのだ。

 舞台のスタッフを殺し、シャンデリアの落下により大勢の客も殺している怪人エリックは、逃亡中の犯罪者という設定になっている。クリスティーヌに対する行動も、「犯罪」であるように描かれている。それは、ラストで怒った市民たちによってエリックが殺害されるという展開に正当性を与えているのだが、原作の魅力の1つである、メロドラマ的な部分が薄れてしまっているように感じられる。

 影をうまく使った演出も、スリラーの演出としては適切だ。だが、怪人エリックが素顔をクリスティーヌに見せてからは、エリックの顔や行動がスリラーの要素の中心に位置づけられ、演出は控えめになっているように思えるのが、残念だ。

 「オペラの怪人」を語るときに、最も大きく取り上げられるのはチェイニーのメークだろう。確かに、千の顔を持つ男としてのチェイニーの存在を証明する作品として、「オペラの怪人」は適切であるといえる。だが、そのメーク自体が素晴らしいかは別問題だ。現在の私たちが「オペラ座の怪人」と聞いて、最も最初に思い浮かぶのは、アンドリュー・ロイド・ウェーバーによるミュージカルのポスターなどで使われる、銀色のマスクではないだろうか?少なくとも、「オペラの怪人」のチェイニーの姿ではないだろう。

 6年後に公開される「フランケンシュタイン」(1931)における怪物の造形が、現在でもスタンダードとしての地位を占めている一方で、「オペラの怪人」のチェイニーによる怪人の造形を知る人は少ないことが、「フランケンシュタイン」の怪物よりは成功していなかったことを証明している。

 ちなみに、現在ビデオやDVDで流通している作品は、1929年に追加撮影と再編集が行われた音楽付きのバージョンだという。また、1925年に公開された「オペラの怪人」は、観客の反応が悪く、複数回にわたって追加撮影と再編集が行われたといわれている。さらに、監督の名義はルパート・ジュリアンのみとなっているが、主演のロン・チェイニーも含めて複数人が担当したという。

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