D・W・グリフィスの作品 1909年(2)

「THE COUNTRY DOCTOR」

 D・W・グリフィス監督作品。バイオグラフ社製作。

 幸せな医者の家族の一人娘が急に病気となる。治療する医者だが、そこに貧しい家族の娘が病気になったので見に来て欲しいという連絡が。医者は悩むが、義務を優先して貧しい家族の娘の治療へと向かう。治療を終えて急いで自宅に戻るも、自分の娘は息を引き取っていた。

 悲劇である。物語は単純だが、単純ゆえに1巻(15分)という短時間にも関わらず、見る者に十分に悲劇性が伝わってくる。1909年当時の他の作品の中には、ドラマを訴えかける作品もあるのだが、この作品ほどわかりやすくはない。映画は、貧しい家と医者の家の様子が交互に描かれる(このカット・バック的に映像が交差する手法に、観客はとまどったとも言われている)。シーンを限定した手法が、この作品をわかりやすく、かつ訴えかけるものにしている。

 わかりやすさとともに、この作品の特徴とも言えるのが、叙情性だろう。冒頭で「平和な谷」として紹介されるおだやかな自然の風景。左から右へパンで映し出される風景の先には幸せそうな医者夫婦と娘の姿がある。映画のラスト。悲しみに包まれた「平和な谷」を、冒頭とは逆に右から左へとパンで捉える。景色は変わらない。だが、パンをした先にはあの幸せそうな家族の姿はない(当時公開時には、空を青く彩色したバージョンもあったというが、大仰すぎるように思える)。それは、まるで神様が(死神が?)、平和な街にやって来て、1人の少女の死の物語を見守り、また去っていくかのようにも感じられる。

 冒頭と同じ風景なのに、ラストでは違った景色に見える。この手法は、現在でも使われるものだが、1巻(15分)程度の長さであるという点が、その効果にプラスしているように思える。映画開始から2時間後よりも、15分後の方が、冒頭のシーンが記憶に鮮やかに残っているからだ。

 ちなみにこの作品には、当時はまだ「バイオグラフ・ガール」として呼ばれており、名前をまだ知られていなかったフローレンス・ローレンスが医者の妻を演じている。また、メアリー・ピックフォードもちょい役で出演しているが、印象的な演技は見せていない。



(DVD紹介)

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