松竹 五所平之助のリリシズム

当時の蒲田撮影所では、伊豆と潮来をロケに多く使った。特に潮来はロマンチックな効果をあげたという。五所平之助は、叙情的な田園映画で傑作を生み出した。「寂しき乱暴者」「からくり娘」(1927)を、その系列にあげることができる。また、五所は都会…

松竹 五所平之助の大奮闘と伏見晁

松竹蒲田撮影所では、五所平之助が大奮闘を見せていた。「寂しき乱暴物」「恥しい夢」「からくり娘」「処女の死」「おかめ」(1927)を監督している。 「恥しい夢」は、うぶな芸者が偽学生にほれるが、偽者だと知って旦那の下に戻るという内容の作品であ…

日活 新しい流れ 内田吐夢と田坂具隆

日活現代劇の分野では、新しい流れが芽生えつつあった。その代表が内田吐夢と田坂具隆の2人である。 内田吐夢は、大正活映横浜スタジオに栗原トーマスの門下生として入り、俳優や雑役をこなした。そして、マキノなどの小プロダクションで俳優として出演後、…

日活 「椿姫」と岡田嘉子の駆け落ち

日活では、森岩雄がデュマ・フィスの原作を翻案して、村田実が監督した「椿姫」(1927)が作られている。森は小説をそのまま映画にすることを好まなかったため、原作とはまったく異なる内容となった。 「椿姫」は岡田嘉子主演で撮影が開始されたが、撮影…

日活 阿部豊=岡田時彦の現代劇での活躍

日活の現代劇の分野では、阿部豊=岡田時彦のコンビが活躍した。 「彼をめぐる五人の女」(1927)は田中栄三が脚本を担当した作品で、若いドン・ファン風の医者を巡る5人の女性の物語だった。ユーモアをたたえた風刺劇で、ショットの構成する映画のリズ…

1927年当時の日活京都大将軍撮影所

日活京都大将軍スタジオで製作された映画は、伊藤大輔の作品だけではなかった。関東大震災によって映画製作の基盤が関西に移り、もともと京都が専門にしていた時代劇が興隆していた。中里介山、白井喬二らの大衆文芸の流行や、剣戟劇団の人気も刺激になった…

日活 伊藤大輔「下郎」傾向映画の先駆け

伊藤大輔は、「忠次旅日記」(1927)のほかに、「下郎」(1927)という作品も監督している。主人の仇討ちにお供した下郎が、敵を偶然倒してしまうことで、敵に追われるようになり、主人にも裏切られて無残に殺されるという内容の作品で、封建社会の…

日活 大河内伝次郎の魅力

大河内傳次郎は、走る演技、転ぶ演技、立ち回りに、勢いや弾みや重量感があった。その演技を佐藤忠男は「講座日本映画2 映像表現の確立」の中で次のように書いている。「昭和初期の不況時代における大河内傳次郎のすごい人気は、こういう、のたうちまわる怪…

日活 伝説的作品「忠次旅日記」 伊藤大輔と大河内伝次郎

1926年から、監督=伊藤大輔&出演=大河内伝次郎コンビの作品が作られていたが、この年は伝説的な作品「忠次旅日記」3部作が作られている。3部作とは、「忠次旅日記・甲州殺陣篇」「忠次旅日記・信州血笑篇」「忠次旅日記・御用篇」である。 これまで…

ノルウェー、朝鮮、タイの映画状況 1927年

ノルウェーでは、映画製作はあまり活発ではなかったが、文豪イプセンの孫タンクレッド・イプセンが、長篇サイレント記録映画「国土ノルウェー」(1927)で映画監督デビューを果たしている。 抗日精神を描いた「アリラン」(1926)を製作・監督・脚本・…

スペイン映画 1927年

スペインでは、文芸作品の映画化が多く行われた。 フローリアン・レイ監督の「修道女サン・スルピシオ」(1927)は、19世紀の自然主義の小説家であるアルマンド・パラシオ・バルデス原作の映画化であり、後年の大スターである女優インペリオ・アルヘン…

イタリア 壊滅的な映画製作と盛り上げる映画研究

イタリアの映画製作は壊滅的な状況だった。この頃には1年間で12本未満の作品しか作られなくなっていたという。 映画製作の衰退の一方で、映画研究や映画批評は盛んになっていた。フィレンツェの「ソラリア」誌は映画特集を組み、エンツォ・フェルリエーリ…

イギリス 「スクリーン・クォータ」の導入

低迷するイギリスの映画製作を救うために、映画法が改訂され、「スクリーン・クォータ」が、導入されている。上映する映画の一定割合をイギリス映画とすることを義務づけるものだったが、減収を恐れた劇場側は反対したという。最初の6ヶ月は5%。毎年パー…

イギリス映画 技術派監督アンソニー・アスクィスの登場とその他の作品

アルフレッド・ヒッチコック以外のイギリス映画人として、アンソニー・アスクィスの活躍を忘れてはならない。アスクィスは父が首相を勤めた名家の出身であり、映画が知識階級・上流階級に食い込んだ例でもある。 アスクィスは、1925年に渡米して映画に魅…

イギリス アルフレッド・ヒッチコック「下り坂(ダウンヒル)」「リング」

「下宿人」(1927)を監督したヒッチコックは、他にも「下り坂(ダウンヒル)」「リング」(1927)を監督している。 「下り坂(ダウンヒル)の主演」は、「下宿人」にも主演したスターのアイヴァ・ノヴェロ。女性を妊娠させた濡れ衣によって放校された…

イギリス アルフレッド・ヒッチコックの出世作「下宿人」

1927年のイギリス映画は23本と過去最低を記録した。そんな中、後の大監督が、出世作となる作品を発表している。アルフレッド・ヒッチコックの「下宿人」(1927)である。 ヒッチコック初のサスペンス映画「下宿人」は、切り裂きジャックを元ネタに…

その他のソ連映画 1927年

「ロマノフ王朝の崩壊」(1927)は、既存の記録映画材料を収集、再構成し、映像による歴史の再現を狙った作品である。ソビエト女性映画人の先達であるエフフィリ・シューブが演出した。シューブは、「ドクトル・マブゼ」のロシア語再編集をエイゼンシュ…

ジガ・ヴェルトフとミハイル・カイフマンのドキュメンタリーの特質

ニュースやドキュメンタリーの分野に価値を見出し、「キノ=プラウダ(真実)」などを製作したジガ・ヴェルトフには弟がいた。ヴェルトフの弟ミハイル・カウフマンは、モスクワの明け方から夕方までの一日を描いた「モスクワ」(1927)を監督している。 …

ネップ期のソ連映画とアメリカ映画の影響

当時のソ連は、内戦による疲弊を救うために、一部に市場原理を導入した経済政策ネップが施行されていた。ネップ期のソ連映画界について、山田和夫は「ロシア・ソビエト映画史」の中で次のように書いている。 「レーニン=ルナチャルスキーのリベラルな文化政…

その他のフランス映画 1927年

後のフランスの巨匠ルネ・クレールは、ドラマティックな冒険劇「風の餌食」(1927)を監督している。 技術面では、フランスのソルボンヌ大学教授アンリ=ジャック・クレティアンがアナモフィック(歪曲)レンズを用い、横長の風景を圧縮して撮影し、映写…

後のフランス映画の巨匠 ジュリアン・デュヴィヴィエの映画製作

ルネ・クレールらと並ぶ古典フランス映画の巨匠の1人となるジュリアン・デュヴィヴィエは、フィルム・ダールと3ヵ年契約を結び、契約の条件だったカトリック宣伝映画「エルサレムの苦悩(L’AGONIE DE JERUSALEM)」(1927)を監督している。パレスチナ…

1927年のフランス映画の代表作 アベル・ガンス「ナポレオン」

1927年のフランス映画の代表作はアベル・ガンスの「ナポレオン」(1927)であろう。ナポレオンが砲兵隊長として戦功を立てて将軍となり、イタリア遠征に出発するまでを描いた作品である。 大量の衣装、鉄砲、大砲が集めたり、作られたりした。無声映…

ドイツ 「懐かしの巴里」 G・W・パプストのリアルな描写力

多くの監督や俳優たちがハリウッドへと去っていったドイツ映画界は寂しい様相を呈していた。だがその中で、即物主義的作品を監督したG・W・パプストが気を吐いていた。パプストは、恋愛もの「懐かしの巴里」(1927)を監督している。ブリギッテ・ヘル…

ドイツ フリッツ・ラング・フィルムの設立

多額の製作費と興行的失敗という結果に終わった「メトロポリス」(1927)の責任を、経営危機にあったウーファは、ラングに責任を負わせようとした。ウーファはラングとの契約を解消しようとしたが、責任は自分にないとラングは弁明し、ウーファとの契約…

ドイツ ウーファの経営危機とアルフレート・フーゲンベルク

当時のドイツでは、ハリウッド映画が流行していた。1927年の最初の4ヶ月の間に163本の映画が公開されたが、そのうち71本がアメリカ映画でドイツ映画は59本だった。 一方で、ドイツ映画界で最大の映画会社ウーファは、財政危機に陥っていた。19…

ドイツ フリッツ・ラングの大作「メトロポリス」

この年のドイツ映画の代表作は、エーリッヒ・ポマー製作、テア・フォン・ハルボウ脚本、フリッツ・ラング監督の「メトロポリス」(1927)だろう。 700万マルクにのぼる製作費で、ドイツ映画始まって以来の大作だった。撮影は1925年5月から開始さ…

ドイツ ワルター・ルットマン「伯林−大都会交響楽」

ワルター・ルットマンは「伯林−大都会交響楽」(1927)を監督している。カール・マイヤーとカール・フロイントが原作を担当した。ソ連のジガ・ヴェルトフの理論に従い、大都会ベルリンの1日を盗み撮り中心に撮影し、膨大なフィルムを視覚的映像構成で描い…

その他のアメリカ映画 1927年

後に子役スター、青春スターとして活躍するミッキー・ルーニーは、人気漫画原作の短編映画「ミッキー・マクガイア」シリーズのオーディションに合格し、以後6年間主人公の腕白少年を演じることになる。ルーニーはヴォードヴィルでコンビを組んでいた両親の…

「カルメン」 ラォール・ウォルシュの通俗性

ラォール・ウォルシュ監督は、「カルメン」(1927)を監督している。プロスペル・メリメの原作小説よりも、歌劇「カルメン」の映画化に近い。スペインを熱狂させている闘牛士エスカミロは、負傷中に情熱溢れるカルメンと出会い・・・という内容の作品だ…

大スターたちの映画出演 1927年

自身のプロダクションで大作を製作したダグラス・フェアバンクスは、「ガウチョ」(1927)に出演している。アレグザンダー・ウォーカーは「スターダム」の中で、この作品を批判的に次のように書いている。「あの無邪気な運動家が自意識過剰のナルシストに…